小説

『Cinderella shoes』植木天洋(『シンデレラ』)

 エスカレーターを半分ほど降りると、正面ドアがまるで私を待ちかねたように開いた。
 出られる!
 何の偶然でもいい。エスカレーターを勢いよく駆け下りて、正面ドアから外に出た。
 乾いた涼しい風が頬を撫でた。
 息がゆっくりになって、徐々に落ち着きを取り戻す。
 空は淡い水色で、薄い雲がゆったりと流れている。深呼吸をしてみた。
 そうだ、フライトの時間!
 ガラケーを取り出してバッテリーの残量を確認すると、一足先に空港へ出発した彼に電話をかけた。呼び出し音が鳴る間、空港まではタクシーでいこう、それくらいのお金は持っているだろう、などと考えていた。
 一階だけどうしてあんなに明るかったのに、外に出たら二時過ぎで、閉店するような時間ではなかったことに、後で気づいた。そして、あの老婆はなんだったのか。なにをおがんでいたのだろう。
 そういえば、試着したパンプスを履いたままだ。エスカレーターを駆け下りたというのに、足に痛みはない。さすがだ。
 支払いをしていないけれど、どうしよう。時間はもうないし、閉店しているのでは支払いようがない。
 はあ、とにかく、帰国できる。
 フライトの時間に間に合うだろうか。今二時過ぎで、フライトは夕方だったはず。
 色々考える中で、新しい心配事はそれだった。

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