小説

『MP0でも使える魔法』にぽっくめいきんぐ(『シンデレラ』)

 言って、少年はうつむいた。
「そうかい。……ちょっと待っておくれよ」
 ゴッドマザーは杖を弱めに振り、『探索』の魔法を使った。MP節約のため、探索範囲はなるべく小さく、リゼという娘の邸宅がある、街の北側の、お城の周辺だけに絞る。
 ゴッドマザーの脳裏に映ったのは、先刻作ったかぼちゃの馬車で舞踏会へと向かう最中の、期待に眼を輝かせたシンデレラの姿。そして、街道で倒れたまま、そのまま息を引き取っている、シンデレラに負けない程キレイな身なりの少女の姿だった。
 リゼは事故に巻き込まれたのか、金持ちの娘を狙った悪人の仕業か。その原因探索まで魔法でやっていては、MPがもたない。
「――リゼに会いたいかい?」
「もちろん!」
 少年は即答だった。
「そうかい。わかったよ」
 蘇りの魔法は、ゴッドマザーでも使えない。
 何かをリゼの姿に変化させる余力MPもない。

 そこでゴッドマザーは、杖をゆっくりと横に回した。

 りりりん、りりりん、と音がする。
 人に、希望や幻覚を見せる音。その位のMPは、なんとか残っていた。
「リゼ! 来てくれたんだね!」
 催眠状態になった少年は破顔した。おそらく彼の心の中では、空想の中のリゼへと向かって、丘を駆け降りていることだろう。実際には、少年は風車の下に座り込み、赤いバラを太もものあたりに投げ出していた。

 そのバラを持つ少年の手が、ひくりと動いた。
 少年の目尻には、水滴がうっすらと浮かんだ。

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