小説

『MP0でも使える魔法』にぽっくめいきんぐ(『シンデレラ』)

「しょうがない、あれを、やるかね」
 しばらくうんうんと唸っていたゴッドマザーは、決意の表情を閃かせると、少年に話しかけた。
「ぼうや、そこに立って、目を瞑っておくれ。そして、君の想い人の事を、しばし考えてもらえるかい?」
「え……わかりました」
 目を瞑った素直な少年にゴッドマザーは近寄り、右手の杖を両手持ちに切り替えて、右肩の後ろへと振りかぶった。
 きえええ!
 声と共に、少し上げた左足を勢いよく下ろす。踏み込みの反動を、腰のねじりを使って上半身へと伝える。その回転力は、両腕を伝って杖へ。
 顔はやや下を向いたまま固定。身体だけが回転する。ぱっきょぉん、と乾いた音を立てて、杖は少年のこめかみを打ち抜いた。
 一本足打法の直撃を受けた少年は、ぐわっ、と言って失神した。

 しばらくすると、北の方から、0時を示す城の鐘が、角の取れたやわらかい音となって響いてきた。今頃、シンデレラの魔法も解けているだろう。あの娘はうまくやっただろうか。

「あ、あれ、ここ何処だろう? 頭が痛い」
 風車の下で、少年は目を覚ました。
「大丈夫かい? ぼうや」
「えっと……おばあさん、どちら様です?」
「……成功のようだね」
 死なないように、相手の一部の記憶のみを消すには、角度、スピード、衝撃力、全てのバランスが取れなくてはならない。ゴッドマザーの非力な腕で、曲がった腰を入れてフルスイングした時のみ、奇跡的にその条件を満たす。
「大事な用があったような気がするんだけど……」
「ほれ、もうこんな夜中だ。早く帰って寝るこった」
 ゴッドマザーは、興味が無い、とでも言いたげなつっけんどんな口調で、少年を家へと帰した。

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