――浮橋が、王子様とか、なんかいただけないよ。
乾いた唇で呟いた言葉は、きちんと音声となってはいなかったように思えたけれど、浮橋には届いたらしい。
「失礼な奴だな。……でも、俺は起こしてなんかねえぞ。自力で起きたじゃねえか」
偉いな、と笑う浮橋の顔に微笑み返し、まだ鈍い痛みを残す全身を震わすと、あたしは大きく深呼吸をした。
そうだ。あたしは、長く長く続いた眠りから、今やっと目覚めたのだ。
「おはようさん」
優しい声で囁く浮橋に向かって、あたしは、今精一杯出来る、満面の笑みを浮かべて見せた。