痛みと驚きでテーブルに顔を伏せる彩。
一瞬で火のついた秀樹が浩一に飛びかかり、馬乗りになる。
「このバカ野郎が!」
浩一の顔面を平手で殴りつける秀樹。
両手でガードをする浩一。
「彩、大丈夫?」
敦子がテーブルにふさぎ込んでいる彩に駆け寄る。
「彩に謝れ!顔に傷が出来たらどうするんだ!お前とは違うんだぞ!」
秀樹が浩一の胸ぐらを掴み仁王のような形相でにじり寄る。
浩一がその顔面に唾を吐きかけた。
秀樹は激高し、垂れる唾を拭いもせずに浩一を殴り続ける。
「お父さん、止めてよ。彩ちゃん大丈夫?」
彩の泣き声が響き、浩一、秀樹がそちらを見る。
背中を丸めて泣いている彩。
敦子がその背中をさすっている。
秀樹の隙を見逃さなかった浩一が秀樹を突き飛ばして立ち上がる。
よろける秀樹。
浩一が彩に向って怒声を浴びせる。
「ブスが!泣いて悲劇のヒロイン気取ってんじゃねえ!」
水を打ったように静まり返る。
「あー!」
奇妙な雄叫びを上げる敦子。
背筋を伸ばすとリビンクから飛び出し、トイレに駆け込む敦子。
乱暴にドアが閉められ、鍵がかけられた。
再び静けさが家中を包む。
「おい、母さん?」
秀樹がトイレの前に立ち、ノックをする。
何の反応もなく、何の音も聞こえない。