だが思惑が外れ、敦子の叫び声が聞こえた。
「何これ!何してるの!」
人の大声を久しぶりに耳にし、少しクラクラしながら怒鳴り返す浩一。
「うるせー!捨てとけ!」
パソコンの脇に置いてあったステンレス製のコップをドアに投げつけた。
敦子は黙り、心情をアピールするように階段を大きく踏みつけながら降りて行った。
数秒後、秀樹が駆け上がって来てドアを叩きながら怒鳴った。
「浩一、いい加減にしろ!小便くらいトイレでできないのか!」
秀樹はノブを回し、中に入ろうとして来る。
しかし、ドアはしっかりと施錠されている。
浩一は無言で空き缶を投げつけた。
ドアに傷がついた。
ノブを回す秀樹の手が止まった。
「お前、終わっているよ」
そう言って秀樹は階下に降りて行った。
浩一は貧乏揺すりをしながら、パソコンに向き直してキーボードを叩き始めた。
普段であれば寝ている時間だが、ベッドに入ってもイラついて浩一は眠れなかった。
それでも空腹を感じ、敦子が朝食を置いてくれていないかとステンレス製のコップと空き缶を横に蹴飛ばして、ドアを開けた。
朝食を載せた盆はなく、その代わりに自分の小便が入ったペットボトルが転がっていた。
ドアを勢い良く閉め、床を踏みつけて大声を出す。
「捨てろよ!」
久しぶりに感情を起伏させたせいか興奮しているのが自分でも分かる。
体内の奥の方に生煮えの熱を感じる。
やり場の無いそれに蓋をするようにベッドに戻って目を瞑った。
いつの間にか眠りに落ちていたらしく、目を開けるとすっかり陽が傾いていた。