それも家族に気取られぬように誰もいない時を狙って部屋を出るのであった。
それは自分の不甲斐なさを恥じているからではなく、自分のそんな姿を見せるのが嫌だという塵のようなプライドを守るためであった。
また、引きこもっていても金は必要で、自分の貯金を使い果ててからは、敦子に小遣いをせびっていた。
敦子にとっては、いついかなる状況であっても大切な息子であり、せっせとパートで稼いだ中から浩一に渡していた。
他の家族と言えば、浩一を尊重し、浩一が希望する大学まで送り出した父の秀樹はもはや何の期待も抱かず、迷惑な居候として諦めている。
仲良し兄妹の関係であった彩は浩一のことを毛嫌いし、たまたま顔を合わせれば、その顔をしかめてばかりいたので、浩一は通常時の彩の顔を忘れてしまっていた。
光陰矢の如し。
引きこもり生活開始から七年の年月が流れ、浩一は三十歳になっていた。
すっかり引きこもり生活も堂に入ったベテランであった。
肌は青白く、髪も髭も伸び放題である。
家族も同じようにその歳月を経た結果、秀樹の定年間近で髪は薄くなっており、敦子の白髪と皺は増え、彩は立派な社会人になっていた。
今日も明け方までパソコンのゲームで遊んでいた。
ただ今日はいつにも増して興に乗り、トイレに行く時間さえも惜しかった。
放置してあったペットボトルを拾うと飲み口に狙い定め、座ったままそこに小便をした。
パソコンを横目に見ながらの作業であったが、これが上手く行った。
一滴も溢れることなく、自分の手を汚すことも無かった。
職人芸のような手際の良さに満足し、これからはこれも良いなと思ったくらいであった。
しかし、気の抜けた栄養ドリンクのような液体が入ったペットボトルを視界に入れておくのは汚らしい気がして、ドアの前に置いた。
そろそろ朝飯が運ばれて来る時間であるし、それは敦子が持って行ってくれるはずだ。
思った通り、階段を上る音がし、敦子がドアの前にやって来た。