「止めてくれよ。父さんは悪くないよ。・・・感謝しているよ。でもさ、母さんはきっと知っているんだよね。全部さ。子はかすがいなんて言うけど、うちは母がかすがいなんだよ。そんな母さんに俺は・・・」
黙る二人。
彩が帰って来た。
「何、暗い顔してんの」
彩が上機嫌で元いた位置に戻った。
言葉に詰まっている秀樹に代わって、浩一が代弁する。
「何、明るいしてんだよ。今、何時だと思ってんだよ。もう一時過ぎだぞ、こんな時間に誰と電話してんだよ」
「こんな時間て、お兄ちゃんに言われる筋合いないよ。いつもこんな時間に、『うおっ』とか『ぐふふ』って気持ち悪い」
「聞こえていたの?」
浩一が顔を上げて、秀樹と彩の顔を見渡すと二人が頷いた。
顔を赤らめる浩一。
「母さんも?」
また秀樹と彩が頷いた。
俯く浩一。
秀樹がぽんと膝を叩いた。
「飲もう。もう飲もう。気持ち悪い声も良いじゃないか、家族だろ俺たちは。母さん、飲むぞ。母さんに決められた一日一合を破る上に、父さんは明日も仕事だ。だが飲むぞ。こんな時に飲む以外に道はないだろ。彩、適当に何か頼む」
「はいはい」
彩がダイニングから芋焼酎の一升瓶、グラス、氷、水のセットを運び、で座りながら、手際良く水割りを作る。
「手慣れているな。父さんに作ってくれたこともないのに」
「色々あるんだよ。OLやっているとさ。お父さん、氷少なめね。お兄ちゃんも同じので良いよね」
「お、早速覚えてくれているのか。嬉しいな」
満足そうに秀樹は頷く横で、浩一も頷いている。
三人の前に水割りが行き渡り、秀樹の乾杯のかけ声で、三人でグラスをあわせた。
ツマミは晩ご飯の残りの唐揚げやサラダや豆腐が用意された。
かたく閉ざされたドアの前で宴会が始まっている。