「みーつけた」
誰かがあたしに後ろから抱きつく。
あの頃あたしたちがお線香の匂いと呼んでいた、白檀のしっとりした香り。
ひっと喉が鳴る。搾り出す声が震える。
「――カグヤちゃん」
ふふ、久しぶりだね。二十年ぶりくらいになるのかな。
そう、だね。
もうそんなに時間が経ったなんて嘘みたい。心だけはまだまだあの時の、小学生の時のままなのに。
うん、そうだね、あたしも。
あのね、ここに来るまでに色んな人に会ったの。だけど誰もわたしのこと覚えてなかった。そういえばわたし今日、ちぃが昨日乗ったのと同じタクシー乗ったよ、運転手、松本くんって言ったかな。
そうだっけ。タクシー、昨日乗ったけど、覚えてないな。
ちぃは時々そうやって薄情だよね。
ごめん。
謝らないで。だけどちぃ、何で松本くんにわたしの振りしたの?
振り、っていうか。ごめん、何か、流れで、何となく。
だから、謝らないで。松本くんも面白いね、わたしたち全然似てないのに間違えるなんて。でも仕方ないのかな、だって月日は残酷なくらいうんと長いから。きっと長すぎたんだね。だからちぃもわたしのこと、忘れちゃってるかもしれないって思った。
――忘れたことなんてない、とは言えないよ。
そう。
あの夜の後ね、二学期が始まって、あたしすごく怯えながら学校に行ったの。誰かがカグヤちゃんがいないって言い出すんじゃないか、誰かがあたしに、カグヤちゃんどうしたのって聞くんじゃないかって。だけど誰も何も言わなかった。まるで何もなかったみたいに、そんな子いなかったみたいにみんな平然としてて、そのまま何日も、何週間も経って、あたしは息を潜めながら呆然としていた。こんなものなの。こんな風に呆気なく、忘れられてしまうものなの、って。
そう、だったんだね。そうか、わたし元々あんまり学校行ってなかったから。仕方ないよね。
ごめん。
ううん、大丈夫、いいよ。