小説

『カグヤちゃん』木江恭(『かぐや姫』)

 ――カグヤちゃん?東京から来た女の子、ですか。はあ、二十年近く前に。さて、もうそんなに前のお話となると。ええ、申し訳ありません、檀家さんであれば話は別なのですが。
カグヤちゃん――そんな子も、いましたかなあ。

 あ、お客さん、お帰りなさい。
 いや、何でもないすよ……え?そんなに顔色悪いですか?ああ、いや、別にその、大したことじゃないっていうか。
……笑わないで聞いてくれますか。さっき嫁から電話が来て。
昨日の夜にね、嫁にカグヤちゃんの話したんすよ。お前カグヤちゃん覚えてるかって聞いて、覚えてるって言うから、彼女帰ってきてて、おれ乗せたんだよっていう話をしたら、変な顔してて、まあその時は特に気にしてなくて、もう遅かったし。でも今、電話でね、その話勘違いじゃないかって言うんすよ。で、いや違えし、だって本人と話したしって言ったら、嫁がね。
 あの子、裏山で行方不明になって、多分死んでるって。
 いやぞっとするでしょ。馬鹿言うなって言ったんすけど、嫁は間違いないって。何かね、嫁の父親が猟師の免許か何か持ってて、山に入った時にたまたま見つけたらしいんすよ、女の子の靴の片方――ちょうど、カグヤちゃんがいなくなった年の秋に。それで、村の子が誰か迷子になったんじゃないかって騒ぎになって、でもほら、小さい村だからすぐわかるでしょ。誰もいなくなってないってわかって、じゃあこの靴は何なんだって話してたら、そのうち誰かが、これ、あの子の靴じゃないかって言い出して、学校のアルバムの写真確認したらそうだったって。慌ててその辺りを色々探したけど、他には何も見つからなかったらしくて。ほら、裏山って竹林になってて、昼でも結構薄暗いでしょ。崖とか急斜面も多いから、もしそこから落ちたら……助からない、っていうか。ちょっとあまりにショッキングなんで、子どもらには伏せておこうってことになったらしいです。嫁はね、まあ、発見者が親父さんだったんで、全部知っちゃってたわけですけど。
 カグヤちゃん、ここでは親戚の爺さんの家に預けられてたらしいんすけど、夏休みの終わりくらいにね、カグヤちゃんの親の知り合いみたいな人が迎えに来て、でいつの間にか、カグヤちゃんもその知り合いって人もいなくなってたから、てっきり東京に帰ったんだろうってみんな思ってたって。カグヤちゃん預かってた親戚の爺さんもボケてて、よくわかってなかったらしくて。
 いやでも――まさか、ねえ。だっておれ、昨日、ねえ。
 それこそ死体が出たわけでもないんだし、死んだって話の方が早とちりなんじゃねえのって言ったんですけど。だってぞっとするでしょ、そんな、安っぽい怪談みたいな、ねえ。
 え?次?駐在所?はあ、わかりました。あれすか、例の駐在に話聞くんすか。
 ねえ、やっぱお客さん、マスコミの人なんじゃないの?

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