いかにも――出そうな雰囲気、ですからね。
あ、お客さん、お帰りって、え、また?
もうそろそろ暗くなるし、止めたほうがいいと思いますけど、何処行きたいんすか?
え――裏山の、竹林?
あたしは一目でカグヤちゃんに夢中になった。
小学校四年生なんてそろそろ女同士のヒエラルキーが出来始める時期で、美人のカグヤちゃんをライバル視する子たちも確かにいたけど、あたしは全然そんな気にならなかった。だってカグヤちゃんは、サラサラの髪も色白の肌も、二重のぱっちりした目もピンク色の唇も、何かもかも信じられないくらい綺麗で、田舎育ちのあたしたちなんて全然お話にならないって感じだったから。
カグヤちゃんはあまり学校に来なくて、いつも何処かフワフワしていて危なっかしくて、クラスの女の子に意地悪をされても全然気にする様子がなくて、何だか本当にこの世のひとじゃないみたいだった。あたしはそんなカグヤちゃんが気になって仕方なくて、カグヤちゃんが登校した日はべったり付きまとい、来なかった日は学校が終わると一目散にカグヤちゃんの家まで遊びに行った。カグヤちゃんは大抵退屈そうな顔で縁側に座り足をブラブラ揺らしていたけれど、あたしが迎えに行くと嬉しそうに笑った。
カグヤちゃんの隣に並ぶといつも古い家のようなしっとりした香りがして、それがまた大人びた感じがして憧れだった。草と泥の青臭い匂いの染み付いたあたしとは全然違った。カグヤちゃん自身はお線香の匂いみたいだと嫌がっていたけれど、あたしにとっては特別な香りだった。
だからカグヤちゃんが夏休み明けには東京に戻るって聞いた時、あたしはワンワン泣いた。カグヤちゃんも目をウルウルさせながらあたしの涙を拭いて、そして小さな声で言った。
東京に行かなくて済む方法があるの、手伝ってくれる?すごく無茶なお願いだけど、でもそうしたらわたしたち、ずっと一緒にいられるよ。
あたしはもちろん、何度も何度も頷いた。
そしてある夜、あたしはカグヤちゃんに呼び出されて裏山に行った。子どもは入ってはいけないと教えられていた竹林の、足を踏み外したら一気に下まで転がり落ちてしまいそうな急斜面に生えた藪に、目印の紐が結んであった。
あたしは膝を抱えてそこに隠れた。月がふっと雲に隠れてしまうと自分の掌も見えないくらいに暗くなり、空気はじっとりと湿った感じがして、風が吹くとザアザアと響く音がまるで笑い声みたいだった。あたしは歯を食いしばって、カグヤちゃんをじっと待った。