小説

『カンダタの憂鬱』poetaq(『蜘蛛の糸』芥川龍之介)

「けっ。泣き落しかよ」
「か、KANちゃん……」
「なんなんだよ。大の仏がメソメソと」
「か、KANちゃん、いや。あなたは本当に正直。そして、釈迦に説法の勇敢なお人」
「朝刊だけだ、地獄は!」
「ネットで悪口言う連中って」
 涙を恥じられたのか、それとも、喧嘩腰のジョークを食らって皮肉が過ぎたと反省なさったのか、お釈迦様はいきなり話題を変えられるのでした。
「リアルは以外におとなしい、っていうか、ネットに限ってなのよね、強がんの。だから、やっぱり二次元は信じらんない」
「…………」
「蜘蛛殺し」といったネット中傷も獄卒に見せられたことがあるカンダタです。お釈迦様のご見解には一応賛成するものの、そのカマっぽい口振りが不快らしく、カンダタはしばらく御仏を斜めに睨んでいました。それから、ふと急かすように口を開きました。
「あー、とにかく、今すぐ原作どおり落としてくんねぇかな。これじゃあ、あんたの一人勝ちだ。『悪人にも手ぇ合わす』つってね」
「お願い、KANちゃん!」
 お釈迦様がまたカンダタの手を取られました。カンダタは汚物ででもあるようにそのマシュマロの手を揺すりますが、御仏だけに力は相当です。「内柔外剛」ならぬ「外柔内剛」こそホモの特長たることを長年の獄中生活から知悉していたカンダタは、「このままでは犯(や)られる」とばかりに必死で御仏を振りほどこうとします。
「だだだから、離せって!」
「お願い、KANちゃん。独りにしないで」
「やややめい!」
 怒号とともに、カンダタがお釈迦様を押し退けました。すると、なんということでしょう! 御仏は「あっ」と小さく叫ばれるや、物凄い勢いで回転(スピン)なさるではありませんか。合わせた手の平を頭上に掲げ、さながらフィギュア選手のようです。
 それだけではございません。「転法輪」と言われるように、スピン中でもご説法をお忘れではないようです。長く尾を引く読経がスピンに合わせて寄せては返す波のように響きます。
「ごーしょーしーしゅー(告諸四衆)、だいばーだったー(提婆達多)……」
「ダッタぁ?!」

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