死んだ弟はぐったりとしていて重い。
弟みたいに歩いてくれれば良いのに。
警察官が声を荒げてきた。
「ちょっと何してんの?」
「弟がお騒がせしました」
「すみません。変な所で死んで」
「降ろしなさい」
警察官が距離を詰めて来る。
野次馬たちがざわつき始めた。
「降ろせ!」
警察官の叫び声が届いた。
大声を出せば何とかなると思っているタイプのようだ。
俺もそうしても良いのだが、それではこの警察官と同類になってしまう。
それは嫌だ。
いや、公務員は勝ち組だしな。
これから公務員を目指すというのもありなのか。
弟の静かな返事が響いた。
「本人が本人を持って帰って何が悪いんですか?」
俺は小さく頷いた。
周りは静まり返った。
アブラゼミだけが鳴き続けている。
そうか、今は夏なんだよな。
車の急ブレーキとドアと強く閉める音が響いた。
振り返ると俺たちの花道がヤクザの花道に変わっていた。
「お巡りさん困らせるんじゃねえよ。ゴミが」
声の主を見る。
「兄ちゃん、逃げよう。俺を殺した奴らだよ」
弟は正しかった。
「でっけえマンボウみてえだな」
「だろ?」
俺は弟を殺したでっけえマンボウが憎かったが、実際に近くにいるマンボウは想像以上にでかかった。
俺では敵いそうも無い。