自分の死、しかも身に覚えのない死を宣告されたのだから。
「そうだよ」
「冗談よしてくれよ。俺はここにいるじゃん」
弟は漫画のように自分の頬を抓った。
「ちゃんと痛いし」
「いや、死んでいるんだよ。俺が保証する」
「殴られたのは確かだけど、それ以上の痛みとかはなかったよ」
「目を背けているだけだ。正確には、その部分の記憶がぽっかり穴ぼこが空いているんだよ。きっと限度を超えた痛みだったんだよ。死ってのはさ。物凄く強烈でとっても怖い。だから、死がお前を襲って、お前がこの世から消されたことを忘れているだけだ。それをすぐに受け入れろってのは酷な話だけどよ」
慰めるつもりで弟の肩に手を置いた。
弟が俯いた。
「そうか、死んでいるのか・・・」
「お前、そのでっけえマンボウに殺されたのはどこだ?」
「マンボウと最後に別れたのは確か、桜木町の近くだったかな」
「やっぱり。そこで死んでいるお前を見たんだよ。この俺が」
弟が笑った。
昔から弟の笑顔は無邪気だった。
俺と同じ顔であるのに不思議だ。
内にあるものの差と言われていた。
「ということはさ、俺はもう金を返さなくていいんだよな?もう殺されたんだから。な?」
変な所が賢い奴だ。
「そうだよ。返さなくて良いんだよ」
弟の顔がもっと崩れた。
「良かった」
「良かったな。で、確かめに行こう」
「何を?」
「お前をだよ。お前を連れて来るって言っちゃったんだよ」
「誰に?」
「お前の死体を見ていた野次馬たちにだよ」
「え、良いのかな?こんな顔で俺が出て行って」