小説

『欲しいの因果』相原ふじ(『星の銀貨』)

 熱々の水の泡に胴上げされているウインナーさん方を菜箸でつつく。
 先週バイト先の後輩に、これ欲しいーって先に言った方がいいですよっ♪とか言われたばかりだ。あんまり変わっていないのかもしれない。
 訳あり菓子パンを手にすることはできなかった。
 絶対欲しいって訳でもなかったんだけど、なんだかなあ。

 テレビからニュースが流れる。誰でも発症し得るけれど、誰もが発症はしないという難しい病気の特集をやっている。
 それで、あるぱっとしなかった女優さんが急逝したらしい。去年の8月に。
 彼女のラジオはサブカルチャー好みの人たちのうちでもニッチな層に人気を博していた。熱狂的なファンがインターネットの世界で騒ぎ立てていた。
 一度ラジオを聞いたことがある。
 お父さんお母さんと共有できる類の面白さじゃなかったけれど、不健全に健全な感じは嫌いじゃなかった。
 公共の電波にどーんと乗るのは死んじゃってからなのかと思うと、人ごとながら不本意だ。お茶の間のおじいちゃんおばあちゃんお嫁さんに旦那さんに子供たちは、きっとあんな人いたのかと思っているだろう。
 「そうかあ、しんじゃってたのか」
 知らなかった。
 必死に夢を追いかけて女優にはなれたけど、したがっていた結婚も世界旅行もできずに死んじゃったのか。
 自分のほとんど全部を投げ打ったとしても、結局死ぬ時には死ぬんじゃん。救われないなあ。
 コンロの火をとめる。
 網杓子で掬う。
 濡れた皮はウインナー自体の熱でふわあっと乾いていく。

 私の好きな男の子は近々サークルを辞めるらしい。
 まだ誰にも言ってないんだけど、と。
 過剰に寂しがった。
 「えええ!ほんとにい!?さみしいい!」
 「でもまだ佐々木さんとかいるし」

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