小説

『明日、桜を食べに』柿沼雅美(『桜の樹の下には』)

 じゃあまた連絡する、とお互いに言い、美保はスマホを耳から話しながら空を見た。家を出て見えた広い青空が、ここでは桜色の重なり合う隙間から覗いている。続いていく丘の上を歩きながら、桜並木の先に見える高校の校舎が記憶のものよりも近く見えた。高校生の時には、ずいぶん長く歩いていた気がしたのに不思議だった。
 高校の頃に、この時期に必ず座っていたベンチが見えてくると、一人の女性が座っていた。歩いていくと、茜だった。茜がベンチに座って両足を投げだし、桜を見上げていた。
 「あかねっ!」
 美保が駆け寄ると、茜はあっ、という顔をしてぴょんと立った。
 「え、美保! どしたの、えー、なに、超ひさしぶり、どしたのなに」
 二人でキャーとして近くを歩いている人が驚いているのに気づいた。
 「びっくりしすぎてすごい声でちゃった、どうしたの美保」
 「茜こそどうしたのこんなとこで、っていうか座ろ」
 茜は少し右に動いて、美保と同時にベンチに腰掛けた。腰掛けながらもまだキャッキャとして、元気そうー綺麗になってるーかわいくなったー、と言い合った。
 「美保、美優思い出して来たー?」
 「ううん、っていうか、まぁ、うん」
 「どっちよー、ははっ」
 「桜見ようかなって思ってから思い出したから、美優がきっかけじゃなかった」
 美保は美優の名前を聞いて声が落ち着いてきたのが分かった。
 「そういうことじゃないじゃん。ちゃんと来て、すごいじゃん私たち」
 茜はそう言って肩で美保の肩をコツンとした。コツンと美保の視界がゆっくり揺れた。
 「美保も同窓会来てたよね、だから…もう5年ぶりか」
 「そっか、同窓会から5年もたってんのかぁー」
 美保はバッグから飲みかけのペットボトルのお茶を出して飲んだ。
 「茜は、何してるの、今」
 何してんだろ、と口を尖らせて茜が首を傾げた。
 「んー、とりあえず毎日子供の保育園と仕事でバッタバッタしてる」
 「あ! そっか、子供いるんだ!? そうだよねぇ、もういるよねぇ」

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