沖田が言葉を失ってできたやり取りの隙間に、小さく杉本が手を挙げた。眉根を寄せて口を結んだ、まるで敵に囲まれてでもいるかのような深刻な顔だ。
「どうしたんだ? 杉本」
沖田の言葉の後に一拍置いて、杉本がとんでもない告白をした。掠れ声で、
「オレ、チラシのタイトル、間違って印刷しちゃった……」
一同騒然となった。あっちからもこっちからも、石を投げつけるように言葉が飛ぶ。沖田が声を張り上げなければ鎮められないくらいだった。
「しーずーかーに!」
沖田がほとんど叫んで言うと、ぴたりと雑音が消え、室内の気配がこわばる。
「杉本、何てタイトルにしちゃったんだ?」
杉本が表情を固めたまま、僅かに口だけ動かしたが、沖田の耳には届かなかった。
「聞こえねえよ、何?」
――走れ土左衛門――
割れんばかりの笑いが起こった。狭い空間で活気づいた声が飛び交う。
「どざえもんってなんだよ、ドラえもんかよ!」
「よりによって、それはひでえよ!」
杉本は浴びせられる突っ込みの数々に、頼りなく言葉を返す。
「あの、塾の宿題で国語の文章題やってて、土左衛門って言葉が出てきたから調べたりしてたら、ついうっかり……」
「ただの名前じゃなくて、何か意味があるの?」
川瀬が柔らかい口調で尋ねる。杉本は唇を噛んで頷く。そして躊躇いがちに……
「水死体って意味らしい」
再び割れるほどの声が上がった。しかし、今回は笑い声というより、がなり立てた怒声に近い。
「は? 何それ?」
「じゃあ『走れ水死体』ってタイトルってこと?」
「作り直せよ!」
杉本の声は掠れて今にも消え入りそうだ。
「あの……一クラスの印刷枚数には上限があって、うちのクラスはもう印刷できないんだ」