小説

『めだま』広瀬厚氏(『鼻』)

「おみゃーさんは俺の目玉に間違いないな」晃が問うと、目玉は「はい、間違いありません」素直に認めた。
「どうしてゆで卵のなか勝手に侵入していたのだ」浩の問いに、
「ゆで卵ではなく、私、目玉焼きに憧れを抱いておりました。いつの日か一度焼かれてみたく願っておりました。そして同じ焼かれるならば、目玉焼きに目がない佐藤様の家で焼かれたく思っていました。そこで佐藤様が旦那様に昨日、〈目ん玉一つ置いていけ〉と仰ったのを聞きまして、私は喜びに震えました。然し旦那様は私を佐藤様のところに置いていきませんでした。その晩、どうしても焼かれたい願望に身悶えした私は、とうとう旦那様のところを抜け出し、佐藤様の家の玉子の中にそっと身を隠しました。ところがどうでしょう私の入った玉子は焼かれることなく、茹でられてしまったのです」
 目玉は花粉に涙を滂沱させ、真っ赤になって訴えた。

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