小説

『ヒメゴト』砂部岩延(『鶴の恩返し』)

「年寄りの冷や水ってな」
 運転席からのからかうような声に鼻を鳴らす。
「でも雪が残ってなくてよかったよ。この時期に車なんて不安だったが」
「お義母さんが言うんだから大丈夫よ」
 という嫁の言葉に立案者として少し傷つく。隣で笑う声がなおのこと腹立たしい。
「タンチョウを見るだけなら真冬が良いのだけど、それじゃつまらないものね」
「タンチョウってなあに」
「ツルだよ、知らないの」
「ツルのおんがえし」
 子どもたちが口々に騒ぐ。
「助けてあげるととてもいいことがあるんだ。だから優しくな」
「はーい」
 と、口をそろえる孫達を見て、隣の彼女がにこりと笑った。

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