そう悟った時には、すわと立ち上がっていた。
手にしたセーターを大きく頭上に振りかぶる。
怯えて目を見開く彼女の前で、セーターの袖を引っ掴むと、下から一気に突き通した。右腕、左腕、最後は下から頭を突っ込んで、一息に引きずり下ろす。サイズはぴったりだ。
ローテーブルをまわって彼女の隣に腰を下ろすと、唖然とする彼女に詰め寄った。
「君はいつまでここにいてくれる」
目を白黒させながら、彼女が答える。
「邪魔だと言われるまでは」
「ずっとか」と尋ねると、顎を引くように頷く。
少し考えて、また尋ねる。
「俺は近い将来、子どものいる家庭を築きたいんだ。君はどう思う」
彼女は遠慮がちに、
「子どもはたくさん欲しい。できれば男の子と女の子と両方」
「マイホームは必要だろうか」
「賃貸でも十分」
「今の暮らしに不満はあるか」
すると彼女は手にしたセーターを握りしめて、
「ある」
と、期待のこもった眼差しを向けた。
ならば十分だ。
これ以上に知るべきことも、求めるべきこともない。
彼女の両手に手を添えると、意を決して、最後の言葉を口にした。
新緑の平原になごり雪が光っている。
開けた窓から春にはまだ少し冷たい空気が吹き込む。
「ほら、窓閉めなさい。お祖父ちゃんも寒いって」
前の助手席から叱咤する母の言葉も聞かず、子どもたちは三列シートの最後尾ではしゃいでいる。
「いいじゃないか。子どもは元気がいい」