「この青いのがいいな」
「お目が高いですねー、それ自信作。持ってってもいいよ」
「使いみちが思い当たらない」
「お弁当入れたらマチがないから傾くかな。同じ生地で作ろうか」
「今のがダメになったら頼むよ」
彼女は嬉しそうに頷くと、行李からまた別のものを取り出す。
「こっちが本命。ちょっと合わせてみて」
手渡されたそれを広げてみる。白地にアイボリーのボーダーが入った毛糸のセーターだった。
「よく出来てるでしょ。それに、ほら」
もう一着、同じデザインでひと回り小さいのを広げて見せる。
「街で見かけて、いいなって思って」
と、楽しそうに姿見の前で合わせる。デザインのことを言っているのか、二着一揃いのことを言っているのか。判断が難しい。
二人の共同生活は順調だ。
だからこそ募る不安もある。
彼女は礼がしたいと言った。
たかが一週間ベッドを貸したのが恩というなら、半年ものあいだ家事全般で世話になって、ゆうに二十四倍は返してもらっている。どんな悪徳高利貸しか。
彼女はいつまで居てくれるのか。
そう思い始めている自分がいる。
一方で、もうじきいなくなるに決まっていると腐る自分もいる。
彼女はあまり自分のことを話さない。辛いことがあったのか、後ろめたいことがあるのか。
彼女の下心とやらが自分と同じなら良いと期待しながら、いつかきっと手ひどい目に会うに違いないと疑っている。
矛盾する心にまんじりとする。
黙り込んでいると、やがて彼女の顔から笑顔が萎んだ。ローテーブルの前まで戻って腰を下ろすと、わざとらしく肩をすくめた。
「ちょっとはしゃぎすぎたね」
と、ぎこちない笑みを浮かべて、手にしたセーターを視界から隠すように丸めた。
もう手遅れらしい。