「もう懲りたって」
先々月、納期前に無理をして体調を崩した。彼女は親身に看病してくれたが、元気になるや、こんこんと叱られた。以来、定時以降に仕事を残さないよう気をつけている。現場の評価はむしろ上がった。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさま。今、お茶淹れるね」
空いた食器を持って席を立つ。半分持ってあとに続くと、流しのタライの中に置く。
キッチンはすでに彼女の城だ。
鍋、フライパン、その他様々な調理器具と調味料が彼女の扱いやすいように配置されている。かつてはカップラーメン用の薬缶と片手鍋くらいしかなかったのが、賑やかになったものだ。
食器棚から湯のみを二つ手にして戻る。後から彼女が急須と、小皿に乗った黄金色の焼き菓子を持ってくる。
「サツマイモが安かったから、スイートポテトを作ってみたの」
添えられた小さなフォークで突き刺して一口で頬張る。イモの自然な甘味と控えめなバターの香りがほどよい。
「うまい」
「もうちょっと味わって食べてよ」
と呆れながら、空になった小皿を持って、新たに二つ乗せて戻ってくる。
彼女も自分の小皿からフォークで控えめに切り取って口に運ぶと「まあまあかな」と呟いた。
茶をすすって胃を休めながら、そういえばと口を開く。
「そろそろ冬服を揃えないと。今週末でも買いに行こう」
「えー、いいよ。こないだ買ってもらったばかりだし」
「秋物で冬は厳しいだろう」
「寒いのは平気よ」
「また風邪でもひかれたら困る」と言うと、口を尖らせた。
「あ、そうだ」と手を打って、彼女は部屋の押入れから四角い箱を引き出した。
竹編みの行李だ。
蓋を上げて脇に寄せると、中には色とりどりの布地と毛糸のかたまりが入っている。
「ほら見て、新作」
ローテーブルの脇に並べられたのは布製の巾着やら長財布などの小物だ。昔ながらの和柄にカラフルな生地が組み合わされて、新鮮だがどこか懐かしい。