小説

『デジャヴ殺人事件』aoto(『赤ずきん』)

 摘んできた花からは強い香りが漂ってくる。少女には名前もわからない、ハーブ系の癖のある香り。少女は古い花を抜き取り、新しい花を花瓶にさし、新しい水を加える。
 不吉な予感は的中する。古い花を庭に捨てに行った後、少女は部屋で倒れている祖母の姿を見た。駆け寄って声をかけてみるが、返事はない。動転しそうな心地を抑え、少女は携帯電話を使って母に連絡をした。母の指示に従い、少女は病院に連絡を入れる。やがて、別荘に医師と母がやってくる。祖母の死因は毒であると医師が診断してから、様相は不思議な展開を迎えていく。遅れてやってきた刑事は現場検証を行った。刑事は祖母の手にもっていたフランスパンから毒が検出されたと発表をした。それはおかしなことだった。少女は市販されているフランスパンを購入した。毒物が紛れ込む理由など、少女にはまったく心当たりがない。
 警官はアルコールを摂取していた祖母が薬を服用した可能性について指摘していたのだが、薬に手をつけていた形跡は見あたらなかった。フランスパンはもともと少女が自分の昼食用に購入したもので、祖母がフランスパンを口にしたのは偶然のことだった。でもこれは不幸な事件で終わってもいいものなのだろうか。
 再び、デジャヴに襲われる。私はこのシーンを知っている。同じ体験をしている。祖母は一人しかいないというのに。あのときはワインではなかっただろうか。ワインならば、ワイングラスの中に毒を付着させておくことで、毒殺することが可能かもしれない。
 あのときとはいつのことだろうか。わからない。頭がぼんやりする。そもそも、フランスパンに毒が入っていたのなら、死んでしまったのは私の方だったかもしれない、と少女は憤慨する。少女は恐怖を感じ、その場で気を失った。

4 バッドエンドが止まらない

 少女は狩井沢の別荘に向かう。
 別荘には少女の祖母が暮らしている。
 那賀乃の市内から狩井沢までの距離くらい、少女にとってなれた道筋だった。
 けれども、少女はどうも気乗りがしない。悪い予感がするのだ。

 それはこのごろ見るようになった、デジャヴとも白昼夢とも区別のつかない一連のイメージのせいだった。
 細部を把握しているわけではないのだが、最終的に祖母が倒れてしまうことはどれも一致しており、少女の心に大きな衝撃を残して消えていく。

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