小説

『デジャヴ殺人事件』aoto(『赤ずきん』)

「物騒な世の中だというのに、あのひとはこんな小さい子を一人で歩かせるなんて。なんて親でしょう」
 夢の中の祖母のセリフと同じだった。少女は唖然となって口がきけなかった。
「あなたはえらいわ。よく来たわね。あとでご褒美上げるからね。それに比べて」
「そんなこというおばあちゃんは嫌いよ」
 少女はピシャリといって、別荘を飛び出した。

 悪い夢を見ている気分だった。
 なにかがおかしい。
 私はこの場面を知っている、と少女は思う。
 加速する結末は少女の頭の中に流れ込み、取り返しのつかないループを繰り返させる。まるで、一つの永遠の中に取り込まれているかのようだった。この場所から一歩も前に進むことができない。

 少女に襲いかかるデジャヴは回数を重ねるほど、鮮明な映像になる。
 祖母はワインに花の香りを付与するため、花を差し込んだ水を氷にして、ワインの瓶の中に入れる。
 フランスパンをワインに浸して口に運ぶうちに、祖母は毒を食らい、倒れてしまう。
 なにが、なにがいけないのだろう。
 どこで間違ってしまったのだろう。
 バッドエンドが止まらない。

 少女は「赤ずきん」の童話を思い出す。
 母も祖母も、少女が喜ぶからといって、繰り返し読み聞かせたという。
 毎回、毎回狼に食べられる赤ずきんのどこがおもしろかったのだろう。
 赤ずきんには無理をしてでも、狼の魔の手を止められる手だてはなかったのだろうか。
 別荘を振り返ると、今まさに、祖母がワインに浸したフランスパンを口にしているところだった。
 部屋に戻った後、少女は倒れている祖母の姿を見つけることになる。すべての出来事がデジャヴになり代わる。

 少女はお薬の箱に混じって入っていた、一つの薬品を花瓶の中にたらし込む。

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