小説

『デジャヴ殺人事件』aoto(『赤ずきん』)

 祖母は体の調子を崩している。だからこそ、少女がお見舞いに行くことになっている。
 お見舞いに行った先で倒れられるくらいなら、初めから行かない方がいい。

 デジャヴの中でよく登場するキーワードがある。「花束」と「ワイン」と「フランスパン」の三つだ。
 これらに共通することは何だろうか。少女は考えてみるものの、幸福そうな食卓のイメージしか思い浮かばない。
「ほら、お洋服も準備して有りますからね、さっさとしたくしなさい」
 階下から母親の声が聞こえる。

 母は少女一人で外出する状況にやきもきしていて、朝から気忙になっている。いっそのこと外出を中止してしまえばどうだろうか。
 少女は何度考えただろう。
 しかしながら、今回のお見舞いは少女が母の反対を押し切って得られたものだ。
「それなら私も一緒に行きます」
「私ひとりで行かせてください」
 母の同行を断ったのは小さいながら持ち合わせている自立心のほかではない。これはきっと私の事件だ、と少女は思う。母を巻き込むわけには行かない。もしも、不吉なデジャヴが今度も現実化してしまったなら、祖母と仲の悪い母が警察に疑われてしまうことになる。祖母を救うためにはキーワードに引っかかるものを手にしなければいいのだ。
 少女はバスケットに薬とミネラルウォーター、レトルトのお粥を詰め込んだ。
 母はバスケットの中に花束とワインとフランスパンを用意していたが、少女はすべて外に出した。祖母の別荘へ移動する最中に、酒屋や、パン屋、花屋が目に付いたがすべて無視をした。祖母の家についたとき、少女は目を疑った。祖母の部屋にはすでにバスケットが持ち込まれており、その中にワインとフランスパンと花束が納められていたからだ。幼稚園で生活をしていた時であっても、少女はたびたび同じような風景に出くわすことがあった。
 こうあってほしくはないと願いながらも、誰かが最悪のシナリオを用意して待ちかまえているというようなことが。
 祖母は少女にほほえみを投げかけた。
 ため息ひとつをつくと、少女はそれに応え、笑みを投げ返した。

 祖母はベッドの中から少女の母親の小言を吐く。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10