少女はお湯を沸かし、お粥のパックを温めた。お粥をお皿に移したときには、祖母は少女のフランスパンをつまみにして、ワインを飲んでいた。
「目を離したらすぐお酒を飲むんだから」
「水と同じようなものだよ」
「途中でお花を摘んできたわ。お酒は片付けましょう」
少女は祖母に花束を見せた。
「私が選んだのよ」
「ありがとうね」
顔を赤くしている祖母の口からはアルコール臭がした。
少女の頭には朝見たイメージ映像が流れる。フランスパンと花束とワイン。それは幾度も繰り返し流れるデジャヴだった。デジャヴは少女に不吉な未来を暗示する。警察と母とミルクと水仙。花瓶に、抜かれたワインの瓶のコルクに、ワイングラス。そして、祖母の倒れている姿。もし、現実がデジャヴの通りに進んでいったなら、本当に祖母が倒れてしまうのではないか、と少女は心配に思う。そうならないよう、おかしな映像を振り払ってしまいたい。けれども、デジャヴをどのように取り扱えばいいのか少女にはわからない。
祖母はベッドの中から小言をはく。
「物騒な世の中だというのに、あのひとはあなたを一人で歩かせるなんて。なんて親でしょう」
小言の内容も不思議とどこかで聞いた覚えがあるものだった。
「私が一人で来たかったのよ。おばあちゃん」
次第にデジャヴの感覚が止まらなくなってくる。普通のデジャヴなら一瞬で収まるはずなのに、ワンシーンが長く感じられた。祖母の言葉は一字一句間違えず、覚えている。祖母この後こう言うのだ。『あなたはえらいわ。よく来たわね。あとでご褒美上げるからね。それに比べて』と。
「あなたはえらいわ。よく来たわね。あとでご褒美上げるからね。それに比べて」
ほら、当たった。
「そんなこというおばあちゃんは嫌いよ」
少女はピシャリといって、摘んできた花を整える。これは私が本心で言っている言葉なのだろうか、少女は猜疑心にかられる。何か、決められたレールのようなものがあって、私はその枠線を越えないように、あとなぜしているだけにすぎないのではないだろうか。