小説

『カブオレポート』五条紀夫(『おおきなかぶ』)

 ポチが口を開く。一体どういう説得をするのだろう。

「ワンッ」

 けれども、カブオから返事はなかった。

 クッ、と父は声を漏らし、すぐさま母に指示を出した。
 しばらくすると、扉の前に飼い猫のタマが連れてこられた。
 父が諭すように言う。タマ、頼むぞ、と。

 タマが口を開く。

「ニャー」

 けれども、カブオの返事はなかった。

 これでもダメなのか。父は落胆したが、すぐ気を取り直して物語の続きを思い返した。次は、アレだ。

「母さん、次は、ネズミの番だ」

 しかしながらネズミは飼っていない。それどころか、この家は隅々まで清掃が行き渡っており、野生のネズミさえいなそうだ。

「あなた、ネズミは無理よ。この家に居場所なんてないわ」

「そうよお父さん、ひどいわ!」

 父は考えを巡らし、そうして、一つの結論に至った。

「カブオの部屋にならいるんじゃないか?」

 母と妹が大きく首を縦に振る。
十年近く片付けもされていないであろう部屋ならば、ネズミが住みついていても不思議ではない。

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