小説

『YUKI-ONNA』 植木天洋(『雪女』)

「そ、そうですか」
 来た道を引き返して、三叉路で振り返る。
「あの、真ん中でいいんですけど、入って、すぐ右に曲がるんです。確か」
「ああ、なるほど」
 少々疲れがたまってきた。なんとか、早く休めるところにたどり着きたい。
「すぐ右……この道ですかね?」
「ええと……そう……だと思います」
 だんだん怪しくなってきた。いや、わりと早い段階から怪しかったような気がする。
 しれません、とか、たぶん、とか、確か、とか、だと思います……
 母親の言葉が再び甦った。
 雪女。
 まさか、そんな。
 そんな時代錯誤な。それにこんな都心の真ん中で、出会うはずがない。いや、都心とはいえ、雪がこれだけ降れば出てきてもおかしくないのか?
 適当なことを言って俺を迷わせて、凍死させるつもりかもしれない。あれ? あの物語って、どういう結末だったんだっけ?
 背中に背負った彼女は、ひどく冷たい。最初は彼女もこの雪で冷えているのだと思っていたが、今ではまるで氷の塊を背負っているかのようだった。
 不安が膨れ上がった。
 母親の言葉がぐるぐると回る。
 ありえない。
 まさか、
 この現代に、
 この都心で、
 出会うわけがない。
 彼女は違う。そう願いたい。
 黙々と歩く。彼女の指示に従って。もう終電の時間はすぎているはずだ。それに、バスもないだろう。タクシーもつかまるかどうか怪しい。

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