小説

『星めぐりの』ノリ・ケンゾウ(『 銀河鉄道の夜』『双子の星』宮沢賢治)

 しばし寝ていて、ようやく目を覚ましたシュウタが、重たい瞼をこすりながら。
「あれ、ねえさん。みんないなくなっちゃったねえ」
「うん。でも次、終点。私たちも降りるよ」
「そうなの、着くの。電車、楽しかったなあ」
「なによ、シュウタはほとんど寝てたじゃない」
「ううん、ずうっと乗ってた。ぼく、夢でも電車に乗っていたよ。姉さんも、一緒だった。どこまででも行ける電車だった」
「そう。それはよかった」
 しゅうと音を立てて扉が開いて、シュウタはミヤコの手をきゅっと少しだけ力を入れて握り、ホームと車両の隙間に落ちないように大股で、とんと降りた。そのとんと降りた駅には誰もいなくて、誰もいない、というからには本当に誰もいないから駅員すらもいない。誰もいないホームに二人が降り立つとそこは誰もいなくなくなる。二人がいる。その二人が無人の改札を抜け、また駅には誰もいなくなる。この繰り返し。ミヤコとシュウタは繰り返しを形づくる一要素としてそこに現れて、また消えた。
 夜はたいていが静かでその夜の中でもひときわ静かであるのが、この駅のある街なのか町なのか村なのかなんなのか、ミヤコとシュウタがようやく辿り着いたところであった。二人は手を繋ぎ、ぽつりぽつりと配された外灯を頼りに、道なき道というほどではないけれども、そう云ってしまってもあながち間違いではないくらい道らしくない道を歩いている。
「ねえさん、静かな夜だよ。誰の声も聞こえないねえ」
「うん、誰もいない」
「電車に乗ったらお父さん、いるって姉さん言ったけど、いつ見える、お父さん」
「もうすぐ、川の方まで歩くの」
 ミヤコの口から、かわ、と言葉が響くと、たちまち川の流れる音がシュウタには聞こえてくるようで、
「川の音、する。あっちの方から」
 とシュウタが云うのに、ミヤコが少し驚くのはミヤコにはまだ川の音など聞こえてこなかったから。
「シュウタそれ、本当?」
「うん、本当」
「そう、そしたらそっち、行ってみようか」
 ミヤコがそう云うのに、シュウタは今まで行く先はすべてミヤコの一存に握られていたのが初めてシュウタがミヤコを導いているようで得意になる。
「ぼく連れてってあげよう。川の方へ」

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