小説

『ブルーレター』吉原れい(『どんぐりと山猫』)

 道は途切れることなくどこまでも先へ先へと続いていた。
 次第に、足元に生えていた雑草が生い茂り、いつの間にか、路地は深い緑に覆われた。
 草藪の中を突っ切ると、道が開けた。周りに広がる景色は、まるでどこかの山奥のようだった。
 草木をかきわけ、いばらをかきわけ、深い緑の匂いを嗅ぎながら、俺は手紙の地図の通りに進んだ。
 だがそこで道が急に途絶えた。行き止まりだ。
 足元を見ると、なぜかそこにマンホールがあった。蓋が、わずかばかり開いている。
 そういうことか、と俺は独り合点して、蓋をこじ開け、中に入った。

 地下水路は薄暗く、奥は真っ暗で何も見えなかった。どこに向かって進めばいいのかわからず、途方に暮れていると、遠くの方から猫の鳴き声がした。その声に呼ばれているような気がした。
 俺は声のする方へ走り出した。
 とにかく会いたかった。『あおい』に早く会いたかった。
 猫の鳴き声がまたした。俺を呼んでいる。そう確信した。
「あーーーー!」
 猫の鳴き声に応えるように、俺は意味なく声を張り上げて、地下水路を駆け抜けた。
 しばらくして、眼前に光が見えた。光のところまで走っていくと、梯子の先に、地上への出口が見えた。

 地上へ這い出ると、目の前にフェンス越しの公園が見えた。俺は嬉々としてフェンスをよじ登り、公園の中へ入った。
 公園はとても広かった。しかし不思議と、遊んでいる子供たちは一人もいなかった。

 『あおい』の姿を探しなが奥へ進んで行くと、池が見えてきた。
 池には、何隻かのボートが漂い、そのうちの一隻に『あおい』の姿を見つけた。『あおい』は独りだった。漕ぐこともせず、ただぼんやり乗っていた。俺に気付くと、『あおい』は片手を挙げた。

「道、迷わなかった?」
 ボートに乗り込んだ俺に、友達に話すような口調で『あおい』が話しかけてきた。
 俺はそんな『あおい』に戸惑いつつ、「迷いました」と正直に答えた。

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