小説

『ミサキ・マサキ』和織(『ウィリアム・ウィルスン』『不思議の国のアリス』)

「ウッチー酔い過ぎ、ちゃんと歩いて」
 ウッチーがよろけているので、僕は彼を支えながら歩いた。
「ほらー、あれ、岬のさぁ、喧嘩止めてさ、なんかあのとき坂田すごかったよねぇ。神がかってた。・・・あの後岬、友達減ってたよねぇ。相変わらず偉そうではあったけど」
「もういいよあいつの話」
「でもなんか変なんだよね・・・あのときのこと思い出すとさぁ、なんでか、坂田がナカジになるの。俺の中で」
「・・・・・」
「ナカジじゃなかった?喧嘩止めたの?」
 ウッチーは視点の定まらない目で僕を見た。僕はそんな目でも、直視することができなくて逸らしてしまった。
「俺がそんなことする訳ないじゃん」
 結局、ウッチーを家まで送って、自分の住むアパートの最寄りの駅に着いたのは深夜だった。酔いは完全に醒めてしまって、少し肌寒く感じた。駅からは下りの坂道になっていて、そこを下っていると、嫌な予感がした。だからずっと下を向いて歩いた。いや、予感がしたのは、もっと前だ。トミーからあいつの話を聞いたとき、そのときにはもう、こうなるんじゃないかって思ってた。だからなるべく一人にならないように、わざわざウッチーを家まで送ったりしたんだ。
 坂を下り切った場所で、彼は壁に寄りかかっていた。僕の嫌悪感とは反対に、綺麗な空気を纏っている。彼は、いつもそうだった。
「変わってなくて嬉しいよ」
 イライラするほどやさしい声で、彼はそう言った。
「どうしたらあんたを消せるんだろう」
「もう諦めなよ。わかっただろう?君は自分で、忘れないと決めてるんだ。真咲、病院でいろいろな人のことを思い出すんだけどね、君ことが、一番多いよ」
「あいつの横暴を正当に追求する幽霊、だろ?本人がそう思ってるんなら、もうそれでいいじゃん」
「別に弁解なんかしないよ。悪いのは真咲本人であることに変わりはない。だけど僕は、子供の頃からずっと、真咲を責め続けてきたんだ。僕には真咲を追い詰めることしか出来ない。彼は僕をそういう風に仕向けることしかしない。このままでは僕は本当に、真咲を殺してしまうと思う」
「知らないよ。自業自得だろ。勝手に自滅しろ」

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