「何それ」
荷物を受け取ったテツが顔をしかめるのと、扉が開くのは同時だった。
「てかオッチ、これ届けるんじゃ」
「降りろ!」
首を傾げるテツの肩を突き飛ばし、音川は荷物ごとテツをエレベーターから追い出した。テツが勢い余って尻餅をつく。
「ちょ、オッチ!」
「いいか下だ、下、下!」
ぽかんとした表情のテツの鼻先で、扉は優雅に閉まった。
エレベーターが、上昇する。
再び始まった緩やかな浮遊感に目眩を覚え、音川はその場に崩れ落ちた。
腹回りは赤を通り越して暗い茶色にべったりと染まっている。手も足も首も頭も、とにかく何処もかしこも激痛で気が遠くなりそうだった。
音川は這いずるようにして、透明なガラス面に寄りかかった。下ではひしゃげたトラックの周りに人だかりができている。近くに止まっている白い車は救急車だろうか。
音川は目を閉じる。
猟銃を背負った元養鶏場主が、人を殺そうと道を歩く。ちょうどその真上から青年と姉弟が飛び降りて、両者は激突する。死を目撃した子どもは怯えて道に飛び出し、それを避けようとしたトラックは電信柱に突っ込んで、轟音を耳にしたテツは飛び起きる。もう何日もまともに飲み食いせず餓死寸前のテツは、部屋の外へ彷徨い出る。
エレベーターを、待つ。
「クソッタレ」
死が死を呼ぶ最低のドミノ倒し。本当にクソみたいな世の中だ。
だけど――それでも。
まだ読みかけの漫画がある。クリア前のゲームがある。もしかしたら明日になれば、女の子の誰かが返信をくれるのかもしれない。またテツと連絡を取り合って、一晩中語って遊んだっていい。あの頃は本当に、楽しかった。
まだいきたくない。彼らと同じ場所には、まだいきたくない。