何にせよ、改めて口に出すには恥ずかしすぎる。青春の一ページという奴だ。音川はわざとらしく咳払いをした。
「てかお前、コンビニ行くんだろ。これ上行きだぞ」
「ああ、結構待ったのに、下行き全然来ないんだよ。だから一旦上行ってから降りればいいやと思ってさ」
階数パネルに目を遣って、テツがあれっと声を上げた。
「オッチ、何階?」
「え」
「押してないよ、階数ボタン。何階いくの?」
「ええと――あれ」
音川は荷物に視線を落としたが、伝票が見当たらない。つるりとしたダンボール箱の表面が音川を見返している。
そんな筈はない、伝票は何処だ。確かに見た筈なのに。
いや、本当に見たのか?
宛名は?住所は?自分は一体何処に、誰に、荷物を渡そうとしている?
「オッチ?」
エレベーターはぐんぐん上昇していく。上に、上に。階数ボタンを押してもいないのに。
思い出せ。自分は何階にいくのだったか。そもそも、今は何階だ。
冷たい汗が背中を伝うのを感じながら、音川は外に目を遣った。地平線まで広がっている町の景色は、作り物のように精巧にどこまでも続いている。
まるで、展望台から見下ろしているかのような風景。
――そんなわけはない。ここはただのマンションだ。そんなに高い筈はないのに。
「事故かなあ」
透明な壁に張り付いたテツが、ぽつりと呟いた。
「事故?」
「ほらあそこのトラック、電信柱に突っ込んでる。運転席ぺしゃんこだあ」
「トラック」
音川の手足が急に冷たくなって、荷物の重みが手のひらに痛いほど食い込んだ。
飛び出してくる小さな影。力いっぱい踏み込んだブレーキ、捻じ曲げたハンドル。