背中に銃?誰かを殺していた?
音川は思わず三人の方に顔を向けてしまい、青年と真正面から目が合った。青年はおっとりと微笑んで、軽く頭を下げた。
「うるさくしてすみません。大きな荷物で大変ですね」
「え、ああ、はい」
「素敵なところですね。景色もとても綺麗だ」
「ああ、ええ、そうですね」
青年の言葉に釣られるように、音川は透明な壁から下を覗きこんだ。
エレベーターは、もうずいぶん高いところまで来たようだった。音川が路上に停めたトラックも見えたが、ここからだとまるでジオラマの部品か、せいぜいミニカーのようだ。
「ここまで来るとね、もう何もかも小さなことですよ。何もかもね」
青年が妙にしんみりとした声で言うと、姉弟は不安そうな溜め息を漏らした。
「先生」
「せんせ」
「大丈夫。僕らはずっと一緒だ――さいごまで、例え何処まで落ちようとも」
ポォン。柔らかな音が響き、エレベーターの扉が開く。
音川が振り向くと、青年が姉弟の肩を抱き寄せて降りていく姿が見えた。
そのとき音川は気がついた。三人とも何故か、靴を履いていないことに。
次に乗ってきた男に、音川は見覚えがあった。
「テツ?」
「……あれ、オッチ?」
テツはまじまじと音川を眺めて、あちこちが跳ねた寝癖だらけの頭を傾げた。目つきの悪いバナナがプリントされた黄色のTシャツが目に痛い。高校卒業後はほとんど連絡も取っていなかったが、壮絶なまでのセンスの悪さは変わっていないらしい。
「久しぶりじゃん。元気?」
「まあ、そこそこ。お前は?」
「元気、って言いたいとこだけど全然。バイト首になって、一週間引きこもってた」
「マジか」
「マジだあ」