その右腕にぴったりとすがりついているのは、セーラー服姿の清楚な女子高生、しかもかなりの美少女だ。サラサラのロングヘアに白い頬、大きな黒目と赤い唇、細い体躯に似合わぬむっちりした胸。いけないと思いつつも男の性には抗えず、音川もきっちり目で堪能した。クソ、羨ましい、という本心は胸に仕舞い込む。
その反対側、青年の左側には、少女よりもさらに幼い中学生くらいの少年の姿があった。まだあどけなさが残るが、こちらも相当な美少年だ。林檎のように頬を赤く染め、青年を見上げて無邪気に微笑んでいる姿には、音川でさえ思わずドキッとするような艶があった。
さて、この三人の何が奇妙かと言えば――美少女がその豊かな胸を青年の腕にぐいぐいと押し当てており、美少年がその白い手を青年の指に絡めて恋人繋ぎをしているという、言わば三角関係の状況である。
音川は静かに深呼吸した。何だか空気が急にもったりと重く、粘ついてきたようにも思えた。
そんな中でも、エレベーターは淡々と上昇する。
「せんせ、おでこ大丈夫?」
美少年が背伸びをして、青年の赤く腫れた額に気遣わしげに触れた。どうしてわざわざ耳元で囁く必要があるのかは、音川にはわからない。
「痛っ……ああ、うん、大丈夫だよ、ありがとう」
「タダシ、傷に触るんじゃないの、痛むでしょう。先生、ごめんなさい」
「うん、本当に大丈夫だから。ありがとう、カオルちゃん」
美少女はキツい目で美少年を睨みつけながら、青年の腕をギュッと胸の谷間に抱き込んだ。リア充爆発しろ、と音川が心中で呟いたところで、美少女がドスの聞いた声で吐き捨てた。
「あの石頭のクソ親爺、先生に傷をつけるなんて万死に値する」
「姉さんが悪いんだろ、飛ぶタイミングを読み間違えた」
美少年は美少年で先程までの愛らしい表情が嘘のように、冷え冷えとした視線で美少女を睨みつけている。音川は密かに戦慄した。
「やめなさい。あれはどう考えても僕たちが悪い。むしろあのおじさんにはすまないことをした――それに、あの子。怖がらせてしまった」
青年が溜め息を吐くと、二人は慌てて青年にしがみついた。
「先生が気にすることじゃない。子どもはともかく、あのクソ親爺はワケありに違いないもの」
「そうだよ、背中に長い銃を背負ってるのが見えた。あんなことにならなかったら、きっと誰かを殺してたよ」