彼女は少し困ったように黙り込み、小さく頷いた。
「そうですね。彼は私たち(・・・)の(・)王様です」
その頃オーガーは、顎に手を当て、自分の部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。
その少し後を追いかけまわしながら、アグリが必死で呼びかける。
「ですからオーガー様! あの娘を愛してやればいいのです!」
「黙れアグリ。人間なんてどうやって愛せと言うんだ! しかもあんな小汚い女……いいや、それ以前の話だ、俺はこれまで一度だって何かを愛したことがないんだぞ!」
「でもオーガー様……あなたもそのおつもりで、あの娘を連れてきたのでしょう?」
「それは魔女がなかなか見つからないからだ!」
「ではもう、この手段を取るほかありません」
アグリは強く言った。
「あの娘を愛すのです」
オーガーは怒鳴るのを止めて、深い息を吐く。
両手をひらりと持ち上げた。
「……俺は、愛す方法は分からない。だからお前の言う通りにしよう」
待ってました! アグリの目がきらりと光った。
贅沢な料理の並ぶテーブルについて暫くすると、広間に鈴音が入ってきた。オーガーは鈴音を一瞥し、慌ててもう一度彼女に目をやる。髪もぼさぼさ、泥まみれで小汚かった少女は、あたたかい湯舟で身を清め、城にあった服を着せられてまるで別人のように変わっていた。
「ほう……これは美しい」
アグリが溜息を吐く。
鈴音の肌は雪のように白くなめらかで、湯に浸かったせいで頬だけがピンク色に染まっていた。瞳と同じく漆黒の髪は、艶を取り戻してなびいている。
「オーガーさん」
オーガーがはっとすると、鈴音との距離は思いのほか近かった。