声が震えぬよう、気丈に。鈴音は続けた。
「私もどうか一緒に連れていってください」
オーガーは鈴音の方を見ると、考えるように黙り込んだ。やがてオーガーは小さく口を開く。
「ついて来い」
そう言うや否や彼は再び歩き出した。
鈴音は慌てて馬車から飛び降りたが、ぬかるみに滑って転んでしまった。それどころか、長い間足を縛られていたせいでうまく立つことすら出来ない。早くしなければ置いていかれてしまうと、半泣きで顔を上げると、目の前にオーガーが立っていた。
鈴音を抱き上げてオーガーは再び歩き出す。荷物のような運ばれ方をした鈴音が次に下ろされたのは、石造りの城の入り口だった。
「サングリア、こいつを浴室に案内しろ」
オーガーはそう言うと廊下の向こうに消えてしまった。サングリアと呼ばれた女性は、鈴音のことを茫然と見つめたまま動かない。
「人間の女の子」
かと思えば、突然ぽつりとそう呟いた。
「サングリア! ぼうっとするな、のろまなやつめ!」
声を上げたのはオーガーと一緒にいた小柄な男だ。男は鈴音に向き直ると、深々頭を下げた。
「初めまして。私は、オーガー様の一番の付き人、アグリでございます」
「アグリさん……。私の名前は鈴音です」
「す、しゅ、しゅじゅね?」
どうやらスズネの発音が難しいらしい。繰り返し言っているうちに、何とか近い発音で呼んでもらえるようになった。
「バスタイムが済んだら広間にお越しください。豪華な食事をご用意してお待ちしています。スジュネ」
鈴音はサングリアに連れられて浴室に向かった。
城の中は広く豪華なつくりをしていたが、そこら中にクモの巣がはっていたり、埃がたまっていたりと清潔感はまるで無かった。まあ今の自分が言えたことではないが。
「サングリアさん。オーガーさんは、もしかして王様なんですか」