鈴音がアグリに差し出したのは杖だった。
「この前の大掃除の時、要らなくなった棚があったから木を削って作ってみたんです。もともとの棚が凄く上品な色合いをしていたから素敵な仕上がりになりました」
「こ、これを私に……?」
鈴音ははにかみながら頷く。
「アグリさん、いつも足を引きずっているから、少しでも支えになるものがあればと思って」
アグリは感動で言葉を失った。鈴音は続ける。
「あの日、助けてくれたのはアグリさんも一緒ですから」
この少女は何も知らない。
ここが本当は化け物の巣で、呪いを解くために自分は利用されているのだと。
アグリは涙をポロポロ溢しながら、たくさんの言葉を飲み込んで、代わりに何度もお礼を言った。鈴音は照れながらアグリの気持を受け取って、やはり優しく笑うのだった。
その晩、お城では盛大なパーティが開かれた。
たくさんの料理の乗ったテーブルを、オーガーと鈴音と、屋敷にいる全てのもので囲んでの大騒である。
「オーガーさん! 私、こんなに楽しいパーティは初めてです!」
そう言う鈴音に、オーガーも微笑んだ。
「あ……」
「何だ」
「オーガーさんの笑顔、初めて見ました」
とっても素敵です。そう嬉しそうにする鈴音に、オーガーは真っ赤になってグラスを煽った。
音楽が流れ始め、目を輝かせた鈴音が席を立つ。彼女はオーガーの手を引き、広間の真ん中へ向かった。
「ダンスしましょう」
「そっ、そんなもの俺はできない」
「私も初めてです。でも、おとぎ話では、王子様とお姫様はいつだってお城でダンスを踊るんですよ」
いつの間にかオーガーたちの周りにはギャラリーができていた。
「すてきですよー、オーガー様!」