小説

『蜘蛛の糸』anurito(『蜘蛛の糸』)

「尊師よ。今回の出来事は、我々にとっても良い勉強になりましたな」と、菩薩は釈迦に語りかけた。
「残念な結果には終わったがね」釈迦は答えた。
「あの者たちは、地獄に行かされるのではなく、極楽では幸せになれないから地獄に行くしか無いのです。その事を間違えてはいけません」と、菩薩。「見てごらんなさい、あのカンダタの表情を。苦しそうに見えて、でも、生き生きしているではありませんか」
「しかし、我が教えはあのような者たちにこそ必要なのだと思うのだ。本当に、どうにかならないものなのだろうか」釈迦がつぶやいた。
「いけません。それ以上の深入りは禁物です。他人を救済したいなどという欲望を持ち過ぎると、たとえ尊師であろうと、解脱を離れ、地獄に落ちてしまいますよ」
 菩薩にたしなめられて、釈迦は淋しそうな笑みを浮かべたのだった。

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