「え?」
「やめようと、思うちょるんじゃ」
爺さんは、持っていた急須を脇において静かに吐き出した。
「やめるって、何、を?」
頭取がひどく取り乱したように聞き返した。理解力が乏しい彼とはいえ、さすがに爺さんが意図していることは理解したようだった。
「やめるって、笠作り、を?どう、して?」
爺さんはひどくバツの悪い顔をして、はあ、とため息をついた。
「お爺さん、いきなりどうしてですか。先週までは、普通にやっていたじゃないですか」
「準備をしちょんったんじゃ。いきなり、なんてさすがに難しいからの」
「でも…」
地蔵が喋ろうとすると、頭取が静かに右手を上げて止めた。爺さんは少しだけ顔が赤くなり、また静かに喋り始めた。
「笠をわしが作って、町に売りに出てくると婆さんに言うんじゃ。それなら、と、餅を買ってくるよう言われて雪の中家を出る。ごつごつした広場を越えて、獣道に迷いそうになりながら西の町を目指してとにかく歩く」
地蔵たちは何がなんやらわからず、互いに顔を見合わせた。
「その道中、7体の地蔵が雪にまみれているのを見つけるんじゃ。なんとも哀愁の漂う姿での。雪を払って思わず手を合わせると、ちょうど笠もあるしかぶせてあげようと思い至るわけじゃ。しかし、笠は6つしかない。ええい、それならば、とわしは自分がかぶっている笠を最後の一体に乗せてやって、売るものもなくなった老人は家路につくんじゃ」
爺さんはその場でくるり、と回って、道を引き返していく様子を演じて見せた。地蔵たちは、またもや顔を見合わせた。
「食べるものもないし、今日は寝ようと婆さんとひとしきり笑い散らかすと、何やら物音が聞こえての。気が付けばドアの外にたいそうな食べ物が置かれているんじゃ。ああ、きっとお地蔵さんが御礼にきてくれたんだと、家の前の7つの丸い跡を見てわしは気が付く。そして、これからも清く正しく生きていこうと改めて心に誓うんじゃ」
コホンと、咳払いを一つして爺さんは地蔵たちを一体ずつ見回した。
「それが、月曜日から金曜日まで毎日進む。わしは食べるものには困らない。そうやって生きていける道があるからの」
「じゃあ、なんで…」