小説

『地蔵・ゴーズ・オン』西橋京佑(『笠地蔵』)

 少し行くと、田んぼはすぐに見えてきた。しかし、そこにあったはずの爺さんの家は既にない。もっと正確に言えば、家はそこにあった。あったが、藁葺き屋根の家とは到底似ても似つかないモダンな家が建っていた。木の家であることには間違いないが、どちらかというと”ウッド”であって、見るものに暖かみすら感じさせるヒノキ造りの家。屋根においては、もはや藁葺かれたものを屋根と言うのであれば、それは屋根ではなかった。
 「これって…」
 「うん…でも、ポチいるし、爺さんだわ」
 ポチは、地蔵たちを見つけると尻尾をぐわんぐわんと振りしきり、一周その場で回ると口を真一文字にしてお座りをした。地蔵たちとの約束で、彼らが家に近づいてきたことを爺さんに悟られないように、静かに喜びを表すことになっているのだ。
 どうなってんのよ、と呟きながら、地蔵たちはやはり静かに爺さんのものと思わしき家に近づいた。近づけば近づくほど、それはあの爺さんのものとはかけ離れたナイスな家だった。
 「とにかく、行ってみるしかないだろ」
 地蔵は、言い出しっぺとしての役割を果たすべく、恐る恐るインターホンに手を伸ばす。ファーストペンギンも脇汗がすごいんだろうな、と自分の脇に滴る冷たい雫を感じながら。

 ピンっポーン

 返事がない。

 ピンっポーン

 二回目にして、地蔵はインターホンにカメラが付いていることに気が付いた。
 「見てるわ、これ」
 そう言うが早いか、地蔵はらしからぬスピードで庭の中に飛び込んだ。リビングと思われる大きな窓の前まで移動すると、インターホンの映像をオロオロと確認している爺さんの姿を捉える。老人のオロオロした姿は、そうそう見たいものじゃないな、と地蔵は思わず顔をしかめた。
 「お爺さん!いるじゃないか!開けてください!」

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