そして、次の瞬間、この二人の宇宙人は、おかしなジェスチャーをしたかと思うと、大統領とアール氏の目の前でパッと消えてしまったのだった。
「君、どうしたらいいのかね?私は、間もなく、国民の前で公開挨拶をしなくてはいけないんだよ!」
宇宙人たちが居なくなると、うろたえた様子の大統領はすぐさまアール氏のもとへと詰め寄ったのだった。
「心配ありませんよ、大統領」
と、平静を装って、アール氏は答えた。
「し、しかしだよ、君」
「まあ、私に任せて下さい。大統領は何も恐れる事はないんです」
そうなのだ。この時、頭の回転が速いアール氏は早くも、この危機的状態に対して、よい打開策を見出し始めていたのである。
明らかに、アール氏には、この大統領の不思議な服は見えていなかった。にも関わらず、あの銀河連邦を名乗る宇宙人たちは、その事に気付かなかったようなのだ。と言う事は、恐ろしいほどのテクノロジーを持っておりながらも、かの宇宙人たちは読心テレパシーまでは開発していなかったらしい。つまり、この服が全地球人に見えているかどうかも、恐らくは目視でチェックされるみたいなのだ。それならば、皆で「服は見える」とウソをついてしまえば、あの宇宙人たちをだまし切ってしまう事も、あるいは可能ではないのだろうか?
そんな時、あの秘書官がまた、この来客室に入ってきた。公開挨拶が間もなくの大統領を連れ出す為だ。
もちろん、入ってくるなり、素っ裸の大統領の姿を見て、秘書官は思わず声を上げかけたのだが、それをアール氏はすかさず制止した。
「秘書官、驚きましたか。大統領の今日の服は素晴しいでしょう?ちょっと趣向を凝らして、特製の服を着て、挨拶をする事にしたのですよ。我が国の科学を結集して作った、頭がよくて、善良な人間にしか見えない上着です。これを見せられれば、自分たちの優秀さを再確認できて、全国民も大いに盛り上がる事でしょう」