「知性指数が高い人間にしか可視できない特殊繊維です。この星の服の形に編んでいますので、もちろん、これが見えておられるあなた方には、ピンとこなかったかもしれませんが」
アール氏は、つい冷や汗をかいた。この国の指導者である自分が、この服が見えなかったと言っていれば、その時点で早くもアウトになっていた事だろう。大統領の方に目を向けてみると、彼にもこの繊維は見えていなかったのか、非常に複雑な表情をしていた。
「大統領には、この服を着て、ぜひ国民の前に出ていただきたいのです。銀河連邦への加入はハードルが高いので、その星の知的生物の一人でも、この服が見えないようでしたら、銀河連邦の参加の話は無しにしなければいけません。私たちは、この服を着た大統領を見て、国民たちがどう反応するかをチェックさせてもらい、はたして、この星を銀河連邦に加入させても良いかどうかの最終判断をくだす事にします」
なんだか、とんでもない話になってきたようである。自分にも、恐らく大統領にも見えてないような服を、一体、国民の、いや地球の全人口のどれだけが可視できると言うのであろうか。それどころか、一人でも見えない人がいれば、その時点でアウトだと言うのだから、これはもう、ほとんど負け戦のようなものだ。しかし、この試練をクリアできなければ、地球人の宇宙への進出の道は永遠に閉ざされてしまうかもしれないのである。
「さあ、大統領。今着ている上着をお脱ぎください。私たちの手で、この服をお着せしましょう。私たちが指図するまでは、もう、この服を脱いではいけませんよ」
宇宙人たちに、そのように言われてしまうと、大統領ももはや従わざるを得なかったのだった。おろおろとスーツを脱ぎだし、とうとうトランクス一枚になってしまった大統領のそばに、宇宙人たちが歩み寄り、大統領のまわりで奇妙なパントマイムをやり始めた。どうやら、例の見えない服を大統領に着せているみたいなのだった。
それが終わると、宇宙人たちは、大統領とアール氏の方を見ながら、敵意の無い笑顔を浮かべた。
「それでは、私たちはいったん引き上げさせてもらいます」