小説

『亀の角兵衛』NOBUOTTO(『浦島太郎』)

 祠で少し煙をあびた浦島は竜宮城に来る前の若者に戻っていた。そして若返ったとたんに菊姫にプロポーズをした。話はトントン拍子に進み、赤ん坊に戻った代官の後釜となっていた。今では竜宮での生活を面白おかしく語る浦島の話を「私も行きたーい、行きたーい」とはしゃいで聞いている菊姫と幸せな生活を送っている。これはこれで一件落着であるが、そんなことは恐ろしくて、とても乙姫には言えない。
 乙姫は「まあ、なんて可愛い赤ん坊だこと」と言って赤ん坊を抱きかかえた。
「もう少しがまんすれば、またあの浦島様に会えるのですね。それもまた、ここでの楽しみになるわ」
 2,3百年後、いや数十年後に乙姫が怒り狂う姿を思い浮かべて、角兵衛はぞっとした。
「ということで、それでは私は」と乙姫の機嫌が良いうちにと乙姫殿を出て竜宮宴会場の片付けに向かった。
 その途中、死んだ父角太郎がまた現れた。
「角兵衛よ。わしが死んだ後の乙姫が心配じゃったが、お主が本当によくつくしてくれて安心じゃ。まあ、今回は思わぬ結果になったが、たっぷり時間はあるのでそれまでに打つ手を考えればよい」
「はい、はい」と角兵衛は言う。
「それからな、角兵衛。乙姫に惚れるではないぞ。わしはそれで本当に苦労した」そう言ってウィンクをして段々角太郎は薄れていく。
「父上、えっ、それ、どういうこと」
と消えゆく角太郎の薄影に話しかける後ろから
「角兵衛、角兵衛、浦島ちゃんが泣き止まないのよ。どうしたらいいの」と困惑しつつも楽しそうな乙姫の角兵衛を呼ぶ声がする。
「はい、はい」と言いながら角兵衛はのそりのそりと、また乙姫殿に戻って行くのであった。

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