それでも仕事は仕事。
「今月の二十日は、空けといて」と随分前から社長に指定されていた日の仕事が、まさか見ず知らずの人のお墓参りだったとは……。
「お墓掃除は、別のところで契約されているとのことだから、君はただ、お参りに行けばいいからね」
「えっ、たったそれだけでいいんですか?」
「いいの、いいの。それだけでいいの」
ただ、当日は、変なことが僕の身におこるかもしれないだなんて、全く意味不明だ。
僕は相当の覚悟で家を出た。おかげで、「百合の花が好きな女性だったから……」と、あまりにも自然にお供えの花を選んだ自分の行動にも、なんとか冷静に対処できた。
そして初めて来た霊園だというのに、迷うことなく墓前に辿り着いた時には、言い知れぬ懐かしさで一杯になり、「今日が百年目だったんだな」と思いながら手を合わた。
「百年が経ったのですね」
「はい。あの時と同じ、百年なんてあっという間ですね」
「本当に。百年なんてあっという間。前回はあなた、ここの傍らに座って待っていて下さいましたけど、今回はあなた、何をなさっていたのですか?」
「僕はその……僕だけ立ち止まったような暮らしをしています」
「それは困ったものですね。時間は止まってくれませんから、お気をつけなさって」
「本当に、あなたがあの日言ったとおり。日が出て沈んで、また出て沈んで。――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて、――容赦なく時間は過ぎていきます」
「でしたらあなた、今いる場所から動き出せばいいでしょう」
「そうは思うのですが、仕事も見つからず困っています」
「それは弱りましたね。でも、諦めてはいけませんよ」
「僕も諦めたくはないのですが、そうそう簡単にもいかないのです」