妻は俺の腕の中でしばらく泣きじゃくっていた。時にはしがみつくようにして。口下手だからといってあまり言葉を掛けなかった結果、妻の感情を押し殺すようにしてしまったのかもしれない。こんな細い体で、いったいどれほどの不安と悲しみを抱いて来たのだろう。楽しいこと、悲しいこと、嬉しいこと辛いこと、全てを共に歩むのが夫婦であるはずなのに。
俺は妻の優しさに甘えていただけだった。口下手だからと言い訳を繰り返していただけだった。
満ちる月の光が開け放っていた窓から差し込んでいる。
俺は濡れた頬を指で拭ってやった。彼女が俺の瞳に映っている。
触れた唇は初めてではないはずなのに、少女のような恥じらいを感じさせる初々しさがあり、俺の鼓動も少年の時のように激しく脈打っている。柔らかな肌も、乱れる髪も、そして――その声も俺には愛おしい。
俺たちは求めあい、喜びを感じながら次第にひとつとなり、深い闇夜へと溶けていった。
*
拝啓。
お父様、お母様、お健やかにお過ごしでしょうか。
かぐやは月で元気に暮らしております。
短い年月ではありましたが、お父様、お母様と暮らした日々は、
この先も色褪せることなく、わたくしの胸の中で輝き続けることでしょう。
わたくしがいなくなってからのお母様の嘆きようは、
月から見ていても心痛めるものでした。
かぐやを思い出してくれているのでしょうか。
それとも、親不孝者だと、叱ってらっしゃるのでしょうか。
かぐやの今日があるのは、
お父様、お母様がわたくしを慈しみ、愛して下さったからこそ。
そのことに感謝しても、し尽くせません。
ですが、お母様を慰めにも、
お父様に顔を見せに行くことも出来ない、かぐやをどうかお許し下さい。
月満ちる時、かぐやは一番お父様、お母様の近くにいます。
でも、これからは新しい命がお二人に寄り添って行くことでしょう。
新しい家族が増えて、どんどん賑やかなものになる家は、
明るい未来が輝いております。
この手紙もそんなお母様たちの邪魔になってはいけませんから、
便りは出さず、わたくしの胸の引き出しに、そっと仕舞っておきますね。
それでは、お父様、お母様、いつまでもお元気で。
かぐや