小説

『川からの物体M』大前粟生(『桃太郎』)

「あ、ちょうどよかった。おまわりさん。相談しにいこうと思ってたんですよ。だれも拾ってくれなかったから、〈桃太郎〉がおかしなはじまり方しちゃって。こういうのって、国とか行政がちゃんと手はず整えてくれてるものでしょ? 普通」レジが桃太郎に砕かれる。
「両手を頭のうしろで組んで地面に伏せろ!」警官たちはわなわな震えている。
 桃太郎は肩をすくめる。お札をパンツのなかに入れて警官の方へ進んでいく。
「ちょっと待ってくださいよ。僕、正義の味方ですよ? あなたたちの仲間ですよ?」
「とまれって! まじで!」
 警官が発砲するが、弾は桃太郎の胸板にあたってころりと落ちる。
「危ないなぁ。犬にあたったらどうすんの?」
「こわかったねー」桃太郎はトイプードルのあごをさすっている。
 なにせ鬼退治をするために生まれてきたのだ。桃太郎は並みの体ではないのである。警官たちはおしっこを漏らしながらパトカーまで引き返す。パトカーの影に隠れながら応援を呼んでいるひとりの警官と桃太郎に発砲を続けるもうひとりの警官を尻目に桃太郎はお尻をふりふり歩いている。
「首輪忘れた」といって桃太郎はまたペットショップへと戻っていく。
「どれがいい?」
「くぅーん」とトイプードルがいう。
「うん、僕もそう思う。赤が似合うと思う」
「えっと、あとは猿とか雉とかか。めんどくさいなぁ」
 桃太郎はガラスケースを割ってさらに二匹のトイプードルを取り出し、それぞれ青と黄色の首輪とリードをつけて地面に並べる。リードはちゃんと手で持つだけじゃなくて手首に巻きつけてある。
「じゃあ、おまえが犬。おまえが猿。おまえが雉」
「犬は赤いのじゃないの?」
「あぁ、そっか。じゃあおまえが犬でおまえが雉。いい? わかった?」
「くぅーん」
「おれは猿がいいだって」
「えー。まじ? 僕はちがうと思うけどなぁ」
 と、そこに機動隊がやってくるが、桃太郎が全員吹き飛ばす。

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