「そんな訳ありの女、一緒にいなくてもいいんじゃない?」
「見たいんだ、本当は。見ないのも、見てしまうのも怖い」
「どうする? オトコだったら」
ポケットから香苗の編んだ手袋を取り出し、裕樹はそれを鼻元に当てる。
「いい匂いがする」
「捨てちゃいなさいよ、そんなの」
手袋を当てたまま、裕樹がカウンターに突っ伏す。ぶつかってこぼれないよう、ママがグラスをすっと動かした。
「世の中って、うまくいかないものね」
ごほごほとくぐもった咳をする裕樹に、ママが静かに腕を回す。
香苗の二着目のスーツはそろそろ仕上げにかかっている。
本当のことなんて、いつだって誰も知らない。