私は女の子の名前を呼んだ。
応える声はない。
ドアを開けようと押してもびくともしない。
ドアを叩いてみた。
外に人の気配はない。
私は密室となったかまどの部屋に囚われてしまった。
朝から重たかった頭がより重く、意識が朦朧とする。
部屋は刻々と温度を上げ、熱風が身体を包む。喉はからからに乾いて息が出来ない。
助けを呼ぶ声は掠れて、最早ドア一枚先に届かない。
じきにこの家は焼け崩れるだろう。
皮肉なことに性質上一番頑丈に作ったこのかまどの部屋から出ることはきっとかなわない。
身体が熱い。
苦しい。
恐い。
寂しい。
寂しいと思えるくらいにこの一月私はとても幸せだったのだ。
でもあの子たちはどうだったのだろう。
グレーテルの瞳を思い出す。
不安と寂しさ、揺れる瞳。
そう。
いつしかその目が訴えていた。
私はそれをお兄さんが病気になったせいだと思っていた。
でも今ようやく分かった。
あれは私に向けられたもの。
疑心。
不安。
恐怖。
やがて憎悪。