女の子は何度も首を振って男の子のいる小屋へと入ろうとする。
私は必死でそれを止めた。
「看病は私がするから、貴女は近づいてはダメ」
身振り手振りを交えて何度もそう言ったけれど必死な女の子にそれは伝わっていない様だった。
目を離せば小屋へと飛んでいきそうだったから、私は看病のためのお手伝いをしてもらうことにした。日中はそうやって目の届くところに置いて、夜は玄関の前で毛布に包まって寝た。眠っている間に忍びだしてしまうかもしれないから。
そうやって小屋には一切近づけないで、看病は一人でした。
そのうち女の子は上手にお湯を沸かせるようになったし、お菓子やパンも焼けるようになっていた。
男の子も少しずつ回復していって、身体を起こせるまでになっていた。
壁伝いに会話が出来るくらい体調は戻っていたけど、用心のためまだお互いの行き来はさせないようにしていた。
ある朝目覚めると頭がぼうっとしていた。
ゆっくり立ち上がっても身体がくらりと揺れた。
玄関前で座ったまま眠る日が続いていたから疲れが出たのかもしれない。
ふと香ばしい匂いがしてかまどの部屋へと向かうと女の子がパンを焼いていた。
お店へ並べても良いくらいに上手になっている。
早く男の子に食べさせてあげたいな。
男の子がすっかり元気になって二人が再会するときを想い、笑みが零れる。
女の子は上手に焼けたパンをこちらに掲げ、嬉しそうに笑った。
もっともっと沢山作りたいというように女の子が手をいっぱいに広げた。
私は頷いた。
お菓子もパンもたくさん作れるように大きなかまどを作ったのだもの。
一部屋分ある自慢のかまど。
このかまどのおかげでお菓子の家も維持できているの。
私はかまどの部屋で薪をくべた。
たくさんパンが焼けるように次々に薪を足した。
ふと部屋の温度が高くなった様な気がして振り返るとドアが閉められていた。
「グレーテル?」